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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)178号 判決

控訴人(被告) 株式会社日立メディコ

被控訴人(原告) 平田武司

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被控訴人は、昭和四五年一一月二二日控訴人との間において同年一二月一日を始期とする労働契約を締結したが、控訴人は、昭和四六年一〇月二一日以降右契約は終了したとして、右契約の存在を争い、賃金の支払いをしない。

2  被控訴人の昭和四六年一〇月二〇日以前の三か月間の平均賃金は、一か月当たり金六万九二九六円であり、その支払日は毎月二九日と定められていた。

3  よつて、被控訴人は控訴人に対し、労働契約上の権利を有することの確認を求め、かつ昭和四六年一〇月二一日以降控訴人が被控訴人の就労を認めるまで、毎月二九日限り金六万九二九六円の割合による金員の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1の事実は、契約締結の日を除き、認める。契約締結の日は昭和四五年一二月一日である。同2の事実のうち平均賃金額を争い、その余は認める。控訴人が被控訴人に対し昭和四六年八月から一〇月までの三か月間に支給した賃金総額は一三万八八一六円であり、一か月平均額は四万六二七二円である。

三  控訴人の主張

1  被控訴人と控訴人間の労働契約は、当初昭和四五年一二月一日から同月二〇日までの期間を定めて締結され、同月二一日以降は、期間二か月の労働契約が五回更新されて昭和四六年一〇月二〇日に至つたもので、その後は契約が更新されなかつたから、同日をもつて被控訴人との間の労働契約は終了した。

2  仮に被控訴人と控訴人間の労働契約が期間の定めがないものであるか、又はなんらかの理由により期間の定めがないものとされ、あるいは実質的に期間の定めのない契約と異ならないとされるとしても、控訴人は昭和四六年一〇月一六日、被控訴人に対し、同月二一日以降は契約を更新しない旨を告げた。右は解雇の意思表示に当たり、これにより同月二〇日限り右労働契約は終了した。

四  控訴人の主張に対する被控訴人の認否及び反論

1  被控訴人と控訴人間の労働契約に期間の定めがあつたことは否認する。

被控訴人は、本訴において、右労働契約に期間の定めがあつた旨を認めた事実はないが、仮にそのような事実があつたとすれば、右自白は、真実に合せず、かつ錯誤に基づくものであるから、取り消す。

2  仮に本件労働契約について期間の定めがあつたとしてもその期間の定めは公序良俗に反して無効である。

本件労働契約に基づき被控訴人の従事した業務は、客観的にも主観的にも臨時性がなく、臨時員といわれてもいわゆる本工臨時工であり、そもそも臨時工の制度が、企業主の経済的雇用政策から労働者保護の関係保護法規を潜脱して、企業主の一方的都合で、容易に人員整理を行なおうとする脱法的制度であり、しかも本工との間で待遇上不当な差別(日給制、一時金の低額、退職金の否定)をもうけ、これによつて本工と臨時工との間に反目を誘い、労働者全体の団結を妨げ、もつて労働者を劣悪な労働条件下におき、利益をむさぼろうとするものであるからである。

3  仮にそうでないとしても、被控訴人を含めて臨時員の業務内容はその質と程度において本工と異ならなかつたこと、二か月ごとの更新も、被控訴人不知の間に、給料受領のため予め預けてあつた被控訴人の印章を事務員が勝手に押捺してその手続が行なわれていたに過ぎないこと、臨時員就業規則には、年次有給休暇、定期健康診断、予防接種などの規定が存在し、これらの規定からも臨時員が長期間の就労を予定されていたこと、被控訴人の契約も五回にわたり更新されていることなどからすれば、おそくとも本件傭止め当時、本件労働契約は期間の定めのないものに転化したか、そうでないとしても、当事者間に期間の満了のみによつては傭止めをしないという相互の信頼関係が生じ、被控訴人と控訴人間の労働関係は期間の定めのない契約が存在するのと実質的に異ならない状態となつていたと見るべきである。

4  本件解雇ないし傭止めの無効理由

(一) 労働協約の解雇協議約款違反

本件解雇当時控訴人と日立レントゲン柏工場労働組合との間に存した労働協約第二九条には、控訴人がやむを得ない事業上の都合で組合員を解雇するときは、組合と協議する旨の定めがあり、当時柏工場における従業員は臨時員一四名を含み約六〇〇名、そのうち組合員は約四九〇名であり、被控訴人の従事した労働の実体は前記のとおり組合員のそれと何ら異ならず、被控訴人は右組合員と同種の労働者であるというべきであるから、労働組合法一七条により右協約の規定は被控訴人にも拡張適用されるべきであるのに、被控訴人の解雇について、控訴人は右組合と協議をしなかつたから、本件解雇ないし傭止めは無効である。

(二) 解雇権の濫用ないし信義則違反

本件解雇ないし傭止めは、経営不振を口実とする整理解雇であるところ、整理解雇の有効要件である〈1〉人員整理の必要性、〈2〉解雇回避の努力、〈3〉解雇基準の合理性、〈4〉納得を得る努力のいずれをも欠くのに、臨時工というだけで労働者の生活を無視して差別的に解雇したもので、解雇権の濫用ないし信義則違反として無効である。

五  四の被控訟人の反論に対する控訴人の認否及び反論

1  被控訴人は、本訴において、本件労働契約に期間の定めがあつた旨を自白していたものであり、右自白の撤回には異議がある。

2  本件労働契約における期間の定めは公序良俗に反するとの主張は争う。

3  本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したとの主張は争う。

4  解雇協議約款違反の主張は争う。

本件傭止め当時、控訴人と日立レントゲン柏工場労働組合との間に被控訴人主張の協議約款を含む労働協約が存在したことは認めるが、被控訴人は右組合の組合員と同種の労働者とはいえず、かつ右約款は債務的なもので規範的効力はないから、右約款の存在は本件傭止めの効力を左右するものではない。

5  本件傭止めが解雇権の濫用ないし信義則違反であるとの主張は争う。

本件傭止めは、以下述べるような事実関係の下にされたものである。右は臨時員就業規則第七四条第二項の「業務上の都合がある場合」との解雇事由にも該当する。

(一) 控訴人は、本社業務及び販売を担当する販売・本社部門(前身は、株式会社日立製作所(以下、単に「日立製作所」という。)製造にかかるレントゲン製品の販売を行なつていた昭和二四年五月東京に設立された日立レントゲン販売株式会社)、大阪工場(前身は、昭和二一年大阪に設立された株式会社大阪レントゲン製作所で、昭和四四年八月同社と前記販売会社が合併して控訴人となる。)、柏工場(前身は日立製作所亀戸工場のレントゲン等医療機器製造部門であり、これが昭和四四年一〇月控訴人に営業譲渡され、さらに同四五年一〇月一日柏市に移転してその業務を引き継ぎ、レントゲン装置等の製造を行なつているが、大阪工場とは製品分野を異にしている。以下、単に「柏工場」という。)の三部門からなる。このように右三部門は、それぞれの生い立ちも立地条件や事業内容、賃金等の労働条件その他も異なつていたので、この伝統を踏まえ、かつ計画的な事業運営を期するため、そのままそれぞれ独立採算制で運営された。

(二) 柏工場への移転計画に伴い、昭和四五年下期(四月から九月までを上期、一〇月から翌年三月までを下期としている。以下、元号を省略して、「四五年下期」のように呼称する。)以降五か年半の長期計画が策定された昭和四五年六月当時は一般経済も拡大基調であり、柏工場の製品の需要も増加傾向にあつたので、受注、売上、生産は期平均ほぼ一五パーセントの増加を見込んだ計画を樹立し、人員については、当時の一人当たり生産額の実績数をもととし、これに各期五パーセントの伸びを加味して、計画人員とした。

しかし、一般的経済不況の影響を受け、四五年下期の受注実算は、予算の八四・三パーセントと落ち込み、同期の損益は二億一二〇〇万円の赤字となり、更に四六年上期は受注不振、受注取消、在庫累積を重ね、損益で一億四四〇〇万円の赤字を出した。

四六年下期については、昭和四六年七月、前期の約一三パーセント減の月当たり五億七六〇〇万円の受注予算に基づき予算を編成したが、受注の急激な落ち込みのため、この予算の人員により生産を実行した場合大巾な在庫の不良資産化を招き、柏工場の存立にかかわる事態に陥ると見込まれたため、同年九月二〇日すぎ四六年下期予算の再検討修正が必要となり、検討の結果同期の生産予算を当初の月当たり五億二五〇〇万円から四億八〇〇〇万円に大巾削減した。

そして右生産予算に基づき必要人員を計算すると、通期五四二名となり、同年九月末現在の実在人員六一〇名に対し通期六八名の人員が過剰となり、その対策を検討の結果通期予算人員は五六八名(必要人員通期五四二名に対し二六名増)と決定され、右六一〇名を四六年下期末には五一〇名にするという内容で、一〇〇名の人員削減を行なうこととなつた。

なお、柏工場は、業績不振に対処するため、昭和四六年以降は臨時員等の中途採用を停止するとともに、昭和四六年はじめより経費節減、残業規制、学卒者採用の中止、新製品の開発と外注の内作化など各般の努力もした。

(三) このため、柏工場は、一〇月はじめ、一〇〇名の削減を臨時員・パートタイマー全員(臨時員一四名、パートタイマー六名、計二〇名)を一〇月二〇日の期間満了日をもつて傭止めすること、約三〇名を柏工場から営業部門に異動させること、日立製作所からの出向者三〇名を同社に復帰さすこと及び自然退職予想約二〇名によつて実施することを決定した。

右に基づき被控訴人の傭止めを行なつたのであるが、右臨時員及びパートタイマーの傭止めに当たつては、控訴人はその就職先の確保に努めてその斡旋を行ない、希望者全員に就職先を斡旋して入社させた。被控訴人に対しても、上司である菊間原料課長が一〇月一六日及び一八日に就職を斡旋する旨を話したが、被控訴人は就職先は自分で探すからよいといつて断つたのである。

6  仮に本件傭止めが解雇であるとしても、右解雇は5に述べたような業務上の必要に基づくものであつて、解雇権の濫用ないし信義則違反に当たらない。

六  五の控訴人の反論に対する被控訴人の認否及び反論

1  控訴人ないし柏工場の業績からみて人員整理の必要性は存在しなかつた。

(一) 控訴人において、その主張の三部門につき独立採算制がとられていたとは認め難い。すなわち、柏工場はたんなる一製造部門にすぎず、販売部門を有していないから、経営単位とは認め難い。柏工場の受注、生産、売渡しのすべてが他部門ないし全社の関与のもとにされているのであるから、柏工場は有機的一体としての全社の一製造部門にすぎないことが明らかである。更に柏工場において販売管理費を負担しているが、柏工場が販売・本社部門と別個独立の部門であるならば、柏工場において右費用を負担することはあり得ない。

(二) 仮に控訴人において独立採算制がとられていたとしても、人員削減の必要性を判断するに際し、全社の業績ではなく、柏工場の業績を重視するのは失当である。

会社の業績は、四六年上期の利益はもとより、その売上高、経常利益のいずれにおいても前期を上回り、剰余金、引当金いずれも増加し、業績、財政状態ともすこぶる好調で、一割配当が維持された。同業他社との比較においても控訴人の業績は見劣りするものではなかつた。

(三) 柏工場自体の業績を見ても、四六年上期の利益は赤字ではあるが、前期に比し六五〇〇万円も赤字が減少し、四六年下期の利益は一挙に三一〇〇万円の黒字に転じている。しかも四六年上期の利益が赤字であるのは営業不振が理由ではなく、いわゆる営業外損失が莫大であつたことによるもので、同期の売上高総利益、営業利益はいずれも前期を上回つている。

解雇を必要とするか否かについての業績判断は、予算に対する達成率を基準とすべきではなく、実績を基準とすべきである。柏工場の四六年上期の売上実績は、前期に比し五億三四〇〇万円増加し、四六年下期も四五年下期に比し四億八〇〇〇万円増加し、受注実績、生産実績も業績悪化の状態を示していない。

四六年下期修正予算策定時において、受注予算には修正を加えていないことから見ても、当時業績悪化の見通しはもつていなかつたといえる。

2  解雇回避の努力は、控訴人の全社単位で行なわなければならず、柏工場単位の対策を講じただけでは、その努力を十分に尽したものとはいえない。

柏工場自体においても、業績悪化対策として、控訴人主張のような経費節減、残業規制、新規学卒者の採用中止、新製品の開発、外注の内作化等の対策が行なわれた事実はない。

営業部門への配置転換は、本件解雇を前提とした施策であり、解雇回避の努力とはいえない。

また解雇回避の方策として転職の斡旋をするのであれば、本人に不利益とならないような条件を考慮したうえで相当長期間にわたつて転職者を募るべきで、控訴人の行なつた就職斡旋は解雇回避のための方策とはいえない。なお、被控訴人が就職の斡旋を断つた事実はない。

業績悪化のため人員削減を必要とする状態となつた場合は、まず経営陣の責任が問わるべきであり、資金面の手当として各種引当金の取崩し、固定資産の処分、資金借入、配当金の削減などを行なうべきである。それでもなお業績悪化を打開し得ない場合に、全社的規模での配置転換、希望退職の募集、労働時間の短縮、一時帰休などを実施し、それでもなお企業の維持存続が危ぶまれる場合にはじめて解雇の問題が生ずる。本件においてこれら施策はいずれもとられていない。

仮に本件解雇当時人員削減の必要があつたとしても、本件解雇後多数の自然退職者がでて人員不足となつた事実に徴すれば、解雇を行なわないで、人員削減をすることは極めて容易であつた筈である。

3  本件の場合、臨時工、パートタイマーの労働契約の内容は実質的には本工と同一であるのに拘らず、形式だけに着目して画一的にこれを第一順位の解雇の対象者としたのは、解雇基準として合理性を欠く。

4  仮に解雇せざるを得ない事情がある場合でも、使用者は、対象者に十分に時間的余裕をもつてその旨通告し、かつ客観的、具体的な資料を公開して十分にその事情を証明し、退職金を上積みするなどして、誠意を示して納得を得るため最大限の努力をなすべきであるのに拘らず、控訴人は、被控訴人に対しても労働組合に対しても、かかる努力を十分に尽した形跡は全くない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  被控訴人と控訴人間の労働契約の成立と期間の定めの有無

1  被控訴人と控訴人とが労働契約を締結したことは、当事者間に争いがなく、被控訴人は、その日時は昭和四五年一一月二二日であると主張するが、原審証人奥田喜助の証言によれば、右一一月二二日は被控訴人の採用につき控訴人の面接担当者が被控訴人と面接を行なつた日であり、当日右担当者が被控訴人と労働契約を締結した事実はなかつたことが認められ(原審における被控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は、右証言に照らし採用できない。)、他方原審証人田中正男の証言と右証言により成立が認められる乙第一号証(412ないし416欄の各記入捺印部分を除く。)によれば、被控訴人の希望により出社日と定めた同年一二月一日に被控訴人は労働契約書に署名捺印し、ここに被控訴人と控訴人との間に労働契約が成立した事実を認めることができる。

2  控訴人は、右労働契約は、当初昭和四五年一二月一日から同月二〇日までの期間を定めて締結され、同月二一日以降は、期間二か月の労働契約が五回更新されて昭和四六年一〇月二〇日に至つた旨を主張し、被控訴人はこれを争うが、原審第一回口頭弁論期日に被控訴人により陳述された訴状の請求原因第一項には「原告は、……いわゆる臨時工として労働契約を締結し、……最初の契約では、一二月一日より一二月二〇日が期間とされていたが、その後、一二月二一日より昭和四六年二月二〇日まで、二月二一日より四月二〇日まで、四月二一日より六月二〇日まで、六月二一日より八月二〇日まで、八月二一日より一〇月二〇日までと、次々に更新されてきた」との記載があり、その上で同第二項に種々の事実関係を前提とする「実質的法律的には期間の定めがない契約である。期間の定めは公序良俗に反する。期間の定めのない契約に転化した。」旨の主張が記載されている。そして、右口頭弁論期日に控訴人によつて陳述された答弁書には、被控訴人主張に係る契約日時、期間、更新日時を認め、被控訴人との労働契約は期間を定めた契約である旨の主張記載があるから、被控訴人は、控訴人と当初締結の労働契約は昭和四五年一二月二〇日までの期間の定めある契約であることを自白したものというべきである。

被控訴人は、仮に右の点を自白したとすれば、右自白は真実に合しないものである旨を主張するので、この点を検討する。

原審証人奥田喜助の証言によれば、昭和四五年一一月二二日に行なわれた前記認定の面接において控訴人の面接担当者奥田喜助は、「臨時」という言葉は用いなかつたが、期間の定めのある契約で、賃金は日給であることなどを説明し、また採用後三か月で本工への登用試験の受験資格ができる旨を説明したが、三か月後には当然に正規社員に登用する旨を述べた事実のないことが認められるのみならず、原審証人田中正男の証言及び前掲乙第一号証(412ないし416欄の各記入捺印部分を除く。)によれば、柏工場総務課員田中正男は、同年一二月一日出社してきた被控訴人に対し、控訴人は被控訴人を臨時員として二か月の期間を定めて雇用するものであり、その期間満了に際し双方合意の上契約を更新すること、賃金は日給であること、採用されて三か月経過すれば本工登用試験の受験資格ができることなどを説明し、さらに労働条件について臨時員就業規則を示して説明し、その上で、「3就業条件その他 臨時員就業規則による。」と不動文字で印刷され、「4雇傭期間」の第一欄に契約月日を昭和四五年一二月一日と、契約期間を自昭和四五年一二月一日至昭和四五年一二月二〇日と記入し、同欄末尾の「雇傭者印」欄に柏工場総務課長職印を押捺し、更に文書末尾の「雇傭者」欄に柏工場長の記名印と職印を押捺してあつた労働契約書を被控訴人に示し、臨時員全員の契約期間満了日と被控訴人の契約期間満了日とを一致させるため、契約期間を一二月二〇日までとする旨を説明したところ、被控訴人は、右文書末尾の「被雇傭者」欄に住所、生年月日を記入して署名捺印し、かつ右第一欄の末尾の「被雇傭者印」欄に捺印したことを認めることができる。

原審における被控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし、採用できない。

右認定事実によれば、被控訴人と控訴人との間の労働契約は、当初昭和四五年一二月二〇日までを雇用期間として締結されたものということができる。もつとも、成立に争いのない甲第一号証の一と原審における被控訴本人尋問の結果によれば、被控訴人の応募当時新聞折込等によつて配布されていた柏工場の従業員募集ビラには、臨時員募集の趣旨の記載はなく、「三ケ月後正規社員登用実施」とか、正規社員を前提とする「持家制度、住宅貸付金制度有り」とかの記載がされていた事実が認められるが、右認定の契約締結の経緯に照らせば、右事実も期間の定めある契約であつたとの認定を左右するに足らず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみれば、被控訴人の前記自白が真実に合しないものとは到底認めることはできず、その取消しは許されない。

二  期間の定めある労働契約の効力

被控訴人は、控訴人との間の労働契約の期間の定めは、公序良俗に反して無効であると主張する。

しかしながら、法は短期の有期雇用契約を締結することを否定していない(民法第六二六条、労働基準法第一四条)。そして、原審証人豊島正雄の証言によれば、柏工場の臨時員制度は景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられているものであること、原審証人奥田喜助の証言によれば、右臨時員の採用に当たつては、学科試験とか技能検定とかは行なわず、面接において健康状態、経歴、趣味、家族構成などをたずねるのみで採否を決定するという簡易な方法を採つていることがそれぞれ認められる。このように期間を定めて雇用するいわゆる臨時工を比較的簡易な採用手続で採用し、不況時の雇用量の調整を図ることは、常に景気変動の影響を受ける私企業としては、やむを得ないところがあるのみならず、労働者一般からしても、比較的容易に短期の職を得る道がひらける点において、必ずしも利益がないわけではなく、労働契約に短期の期間を定めることは、必ずしも公序良俗に反するということはできない。

このことは、前掲乙第一号証によれば、柏工場における臨時員の労働契約書には雇用期間の更新欄があらかじめ印刷されていることが認められ、また原審証人田中正男の証言により成立が認められる乙第二号証によれば、柏工場の臨時員就業規則には年次有給休暇、定期健康診断、予防接種などに関する規定が存在することが認められ、これらの事実から使用者及び被用者の双方において雇用関係のある程度の継続が期待されていたものと認められ、また仮に臨時員に命ぜられる作業内容がいわゆる本工のそれと大きな差異がなかつたとしても、同様である。もつとも、原審証人豊島正雄、同奥田喜助の各証言によれば、昭和四五年八月から一二月までの間に採用した臨時員九〇名のうち昭和四六年一〇月二〇日まで雇用関係が継続した者は、本工採用者を除けば一四名で、定着率は比較的低いことが認められるから、臨時員一般の右期待はさして大きなものではなかつたことがうかがわれ、また原審証人菊間将年、同中山幸男、同石川春男の各証言(右石川証言中後記採用し得ない部分を除く。)によれば、臨時員は、いわゆる臨時の仕事、例えば季節的な労働とか特定物の製作とかのために雇用された者ではなく、またそのような作業に従事させられていたわけでもないが、柏工場としては、例外はあるものの、一般的には前作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されない作業に従事させる方針をとつており、被控訴人も比較的簡易な作業に従事させられていたことが認められ、原審証人佐賀浅次郎、同石川春男及び同長友繁の各証言並びに原審における被控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし採用できない。

三  期間の定めある労働契約の反覆更新の効果

1  被控訴人は、控訴人との労働契約はおそくも昭和四六年一〇月二〇日までには期間の定めのない契約に転化していた旨を主張する。

原審証人菊間将年及び同田中正男の各証言によれば、臨時員の契約更新に当たつては更新時期の一週間位前に本人の更新の意思を確認し、当初作成の労働契約書の「4雇傭期間」欄に順次雇用期間を記入し、臨時員の印を押捺せしめていたが、被控訴人の属する機械組においては、本人の意思が確認されたときは、給料受領のために預かつてある印章を庶務係が本人に代つて押捺していたことが認められ(原審における被控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用できない。)、このことと乙第一号証の412ないし416欄(右各欄の控訴人作成名義部分は、右田中証言によつてその成立を認めることができ、被控訴人作成名義部分については、原審における被控訴本人尋問の結果によれば、415欄を除き、被控訴人の印章により印影が顕出され、右415欄の平田の印影は被控訴人の印章によつて顕出されたものではないことが認められるが、右菊間証言によれば、右415欄は、前示のとおり被控訴人の意思を確認して預かつている印章を押捺する際、あやまつて他の同姓の従業員の印章を押捺したことによるものであることが認められる。)とを総合すれば、昭和四五年一二月二一日、昭和四六年二月二一日、同年四月二一日、同年六月二一日、同年八月二一日にそれぞれ被控訴人と控訴人との間において労働契約更新の合意がされたことが認められる。そして、被控訴人は、右各契約が雇用期間を二か月とするものであつたことを一旦自白したことは、前記一2において当初締結の契約について説示したところと同様であり、右乙第一号証の412ないし416欄によれば、右自白が真実に反するものとは到底認められないから、その取消しは許されない。

被控訴人と控訴人との間の労働契約は、五回にわたり反覆更新されたことは右のとおりであり、柏工場の臨時員については雇用関係のある程度の継続が期待されていたと認められることは前記二に説示したとおりであるが、雇用関係継続の期待の下に期間の定めある労働契約が反覆更新されたとしても、そのことにより、それが期間の定めのない契約に転化するとの法理は肯認し難く、いずれかの時点において当事者双方の期間の定めのない労働契約を締結する旨の明示又は黙示の意思の合致が存在しない限り、期間の定めのない契約となるものではない。そして、本件において右のような意思の合致を認めるべき証拠はない。

2  次に被控訴人は、仮に期間の定めのない契約に転化していなかつたとしても、当事者間に期間の満了のみによつては傭止めをしないという相互の信頼関係を生じ、被控訴人と控訴人間の労働関係は、期間の定めのない契約が存在するのと実質的に異ならない状態となつていたと見るべきである旨を主張する。

被控訴人と控訴人との間における五回にわたる労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を締結する旨を合意することによつてされてきていたこと及び柏工場において臨時員は一般的には前作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されない作業に従事させる方針がとられており、いわゆる基幹臨時工と称せられるべきものではなかつたことは、前示のとおりであるのみならず、被控訴人と控訴人との間において労働契約期間が満了しても当事者のいずれかから格別の意思表示がなければ契約は当然に更新せられるべき旨の契約が明示又は黙示に締結されていたと認むべき証拠もない。このような事実関係にある以上、被控訴人の主張するように被控訴人と控訴人との労働関係全体が期間の定めのない契約が存在する場合と同視すべき関係であるということはできない。

しかしながら、他方柏工場の臨時員は季節的労働とか特定物の製作とか臨時的作業のために雇用されるものではなく、従事する作業もそのようなものではなかつたこと、また、右臨時員の雇用関係はある程度の継続が期待されており、現に被控訴人と控訴人との間においても五回にわたり契約が更新されていることも前示のとおりであるから、このような労働者を期間満了によつて傭止めにするに当たつては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当し、解雇無効とされるような事実関係の下に、使用者が新契約を締結しなかつたとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。以下において、このように従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるか否かを傭止めの効力、このような法律関係となることを傭止めの無効、そうでないことを傭止めの有効と呼称してとらえ、判断をすすめることとする。

もつともその雇用関係が比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、傭止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきことはいうまでもない。

四  本件傭止めの効力

被控訴人と控訴人との間の労働契約が昭和四六年一〇月二一日以降更新されたと認めるべき証拠はない。よつて右傭止めの効力について判断する。

1  労働協約の解雇協議約款違反の主張について

被控訴人は、被控訴人が拡張適用を受けるべき控訴人と日立レントゲン柏工場労働組合との間の労働協約には、解雇協議約款が存するところ、本件傭止めは右協議約款に違反する旨を主張する。

本件傭止め当時控訴人と日立レントゲン柏工場労働組合との間に存した労働協約第二九条に、控訴人がやむを得ない事業上の都合で組合員を解雇するときは、組合と協議する旨の定めがあつたことは当事者間に争いがない。しかしながら、柏工場において臨時員と本工とはその従事する作業内容において必ずしも同一と認められないことは前示のとおりであり、原審証人豊島正雄の証言と前掲乙第二号証によれば臨時員と本工とは採用条件、賃金体系、雇用期間等において異なつているから、臨時員は本工と同種の労働者とは認め難いのみならず、成立に争いのない甲第一一号証によれば、控訴人と右組合とは「社員」についていわゆるユニオンシヨツプ協定を締結していることが認められるのにかかわらず、弁論の全趣旨によれば臨時員は右組合に加入していないことが認められるから、右「社員」には臨時員を含まず、協約当事者たる組合は臨時員をその組織から排除し、右協約は臨時員を協約の適用対象から除外しているものといわざるを得ず、したがつて右協議約款は臨時員の解雇につき協議すべきことを約したものではないと認められる。してみれば、仮に前記協約が労働組合法第一七条の規定により臨時員に拡張適用になるとしても組合との協議が臨時員の解雇の有効要件となるいわれはない。更に原審証人豊島正雄の証言によれば、控訴人は昭和四六年一〇月一六日、同月二〇日限りで行なう被控訴人を含む臨時員・パートタイマーの傭止めにつき右組合に申し入れ、その了承を得たことが認められ(このことは、原審における被控訴本人尋問の結果によつて認められるところの同月一九日午後右組合から被控訴人に対し「今回の解雇は止むを得ない」旨の回答があつたとの事実によつても裏付けられる。)から、仮に臨時員の傭止めにつき右組合と協議することを要したとしても、控訴人は実質的にその手続を履践しているということができる。

2  解雇権の濫用ないし信義則違反の主張について

(一)  本件傭止めに至る経緯

(1) 控訴人の組織と運営

成立に争いのない甲第五号証の一、四、五、六、原審証人古坂正彰(第一回、第二回)、同田中正男及び当審証人福島正明の各証言によれば、控訴人は昭和二四年に設立され(当時の商号東日本繊維機械株式会社)、昭和三〇年七月商号を日立レントゲン販売株式会社と変更し、主として日立製作所亀戸工場及び株式会社大阪レントゲン製作所(大阪市西成区所在)が製造するレントゲン機器の販売を行なつていたが、昭和四四年八月株式会社大阪レントゲン製作所を吸収合併して、これを大阪工場とし、更に同年一〇月日立製作所から右亀戸工場のレントゲン等医療機器製造部門の営業譲渡を受け、昭和四五年一〇月一日右営業譲渡を受けた部門を柏市に移転して、これを柏工場としたこと、その結果、控訴人は肩書地を本拠とし、各地に営業所を散在させる販売・本社部門、大阪工場、柏工場の三部門からなることとなつたが、このように右三部門の生い立ち、事業内容が異なり(大阪工場は小型のレントゲン機器を、柏工場は大型レントゲン機器、大型電子機器、産業機器を製造している。)、雇用する労働者の労働条件も異なつていたことから、右合併ないし営業譲渡を受けて以来、各部門ごとに予算を編成し、それぞれの責任において事業運営を行なうところのいわゆる独立採算制ないし事業部制による利益管理を行なつてきたことが認められる。

この点に関し、被控訴人は、柏工場は控訴人の一製造部門であつて販売部門を有せず、また柏工場において販売管理費を負担しているから、独立採算制を採用しているということはできない旨を主張し、成立に争いのない甲第一三号証及び当審証人山口孝の証言にはこれに副うものがあり、また右各証拠中には柏工場が独立の事業部門であることを疑問とする見解がある。しかしながら、成立に争いのない乙第四〇号証の一、二によれば、一つの事業部が自ら販売組織を持たない場合でも、一般にこれを事業部制、独立採算制の一つのタイプと認めていることが認められ、また被控訴人の指摘する販売管理費についても、右福島証言、古坂(第二回)証言、右古坂証言によつて成立が認められる乙第一一号証、成立に争いのない乙第四一号証の一、二によれば、柏工場の負担とされている販売費管理費は、発送費、本社費、レントゲンサービス費等よりなること、右のうち発送費及びレントゲンサービス費は製造部門が別会社の場合でも製造会社の負担とすることが行なわれており、前示営業譲渡以前においても製造者たる日立製作所の負担とされていたものであり、柏工場の販売部門に対する仕切価格はこれらが折込まれて計算されていること、本社費は予算額により売上高基準によつて一括計算する方法により配賦していること、本社費をこのような計算により配賦することは部門別業績管理会計において一般に採用されているところであることが認められるから、被控訴人の指摘は理由がなく、控訴人の行なう右のような利益管理は、これを独立採算制と呼称するにさまたげないものというべきである。原審証人豊島正雄の証言によつて成立が認められる乙第二一、第二二号証も右認定を左右するに足らず、前掲甲第一三号証及び右山口証言中の前示見解は採用し得ない。

(2) 柏工場の拡充計画とその誤算

原審証人古坂正彰(第一回)、同豊島正雄及び当審証人滝沢征雄の各証言、右古坂証言によつて成立が認められる乙第四号証、右豊島証言で成立が認められる乙第一九号証、及び右滝沢証言によつて成立が認められる乙第七号証の一ないし四によれば、柏工場への移転計画に伴い、昭和四五年六月に四五年下期以降五か年半の長期計画が策定されたが、当時は医療機器の需要の見透しは明るかつたため、需要増加を見込んで計画を樹立し、当初は年間約一〇パーセント、右計画期間を通じて年平均約一五パーセントの受注増を見込んで売上、生産を計画し、これに必要とする人員についても当時の一人当たりの生産額の実績数を基礎としてこれに各期五パーセントの生産性向上を見込んで計画人員を策定したこと、右計画によれば、受注予算は月当たり四五年下期五億九八〇〇万円、四六年上期六億七〇〇〇万円、同年下期七億四〇〇〇万円とされ、計画人員(通期)は四五年下期六〇八名、四六年上期六三二名、同年下期六五二名とされたので、この計画人員に副つて当時約五五〇名であつた人員を増加すべく、昭和四六年四月の学卒者の募集活動に入るとともに、昭和四五年八月から一一月まで臨時工、季節工、パートタイマーの募集を行なつたこと、ところが四五年下期、とくに昭和四六年一月以降は不況やドルシヨツクの影響により受注額が伸びず、同期の受注実算額は受注予算額(長期計画においても同額)の八四・三パーセントにとどまつたこと、このような状況をふまえて、四六年上期の予算が同年一月に編成され、もはや長期計画を維持することは困難と認められたため、受注、売上、生産の各予算はいずれも長期計画を下廻る規模で編成され、受注予算は月当たり六億六三〇〇万円としたが、同期の受注実績は更に悪化し、受注予算に対し同年八月は五八パーセント、同年九月は五六パーセント、四六年上期を通じて七五パーセントにとどまる状況であつたこと、またこの期においては納期の延期や受注の取消を受けることがあいつぎ、同期の納期延期実績は月平均三億六七六五万円に、受注の取消は月平均三九一一万円に及んだこと、このような結果製品の在庫が急増し、同期末には八億一九〇〇万円に達し、これは適正在庫量の約二倍であることがそれぞれ認められる。

(3) 四六年下期の予算修正とこれに伴う人員縮少の決定

(2)掲記の各証拠、当審証人豊島勇一の証言及び成立に争いのない乙第四七、第四八号証によれば、四六年下期の予算は昭和四六年七月に編成されていたが、当面受注の大幅な増加を見込むべき要因はなく、右予算に基づき生産を続けた場合は、同年一二月末には、一〇億円を超える在庫を抱える状況となり、このような在庫は不良資産化を招くと判断されたため、これを修正すべく同年九月二九日の柏工場生産会議において再検討が行なわれた結果、受注予算は修正前と同額の月当たり五億七六〇〇万円(これは四六年上期の平均月当たり受注実績約四億九六〇〇万円を上廻り、ほぼ四六年上期前半の月当たり受注実績に見合うものである。)とし、これに伴う売上予算は、受注先から納期を延期せしめられる事態を極力減少せしめるよう販売部門へ強く要求し、これを半減させることを見込んでも、月当たり五億二〇〇〇万円(当初予算の九五パーセント)に縮減せざるを得ず、在庫の増大を避けるためには生産予算は月当たり四億八〇〇〇万円(当初予算の九一パーセント)に縮減せざるを得ないこととなり、そのように生産予算を修正したこと、この生産予算額は昭和四五年六月策定の長期計画における同期の生産額六億五〇〇〇万円の約七四パーセントにとどまること、同時に右生産予算額に対応する所要人員についても検討した結果、所要人員は直接員間接員を合わせて通期五四二名と計算され、昭和四六年九月末における実在人員六一〇名に対し通期六八名が過剰となつたので、四六年下期の通期予算人員を五六八名と決定し、同期末の実在人員を五一〇名とするべく一〇〇名の人員削減を行なうこととし、これを臨時員一四名、パートタイマー六名を同年一〇月二〇日の期間満了日で傭止めとすること、約三〇名を柏工場から販売部門に異動させること、日立製作所からの出向者三〇名を同社に復帰させること及び自然退職予想約二〇名によつて実施することを決定したことがそれぞれ認められる。

(4) 被控訴人を含む臨時員及びパートタイマーに対する傭止めの告知

原審証人豊島正雄、同菊間将年の各証言、原審における被控訴本人尋問の結果及び成立に争いのない乙第二三号証によれば、控訴人は臨時員及びパートタイマーに対し前記傭止めを昭和四六年一〇月一六日に告知することとし、被控訴人所属の原料課の課長菊間将年は右同日被控訴人を含む同課所属の臨時員及びパートタイマーを呼び集め、業績が非常に悪化しているので一〇月二〇日までの契約期間満了後は契約を更新しないので、了承してほしい旨及び就職先の斡旋を希望する者に対しては控訴人においてその斡旋をする旨を告げたこと、同月二〇日被控訴人を除くその余の臨時員及びパートタイマーは傭止めを了承し、解雇予告手当とそれまでの賃金を受領したが、被控訴人は傭止めを了承せず、平均賃金三〇日分の解雇予告手当金六万九二九六円の受領を拒否したので、控訴人は同月二一日千葉地方法務局松戸支局にこれを供託したことがそれぞれ認められる。

(二)  本件傭止めについての権利濫用ないし信義則違反の有無

(1) 被控訴人は、柏工場の業績は人員削減を必要とするほどには悪化していなかつた旨を主張する。

原審証人古坂正彰(第二回)の証言及びこれによつて成立が認められる乙第八号証の一、前掲乙第一一号証によれば、柏工場の売上高は、四五年下期二四億三九九〇万円余、四六年上期二九億七六二〇万円余、同年下期二九億二一一〇万円余で、四六年上期、同下期の売上高は四五年下期に比較し増加していること、損益においても四六年上期の損失は四五年下期に比較して六七〇〇万円余減少し、また四六年下期には三〇八〇万円余の利益を計上していること、毎期二億数千万円の営業外費用が計上されていることが認められる。

しかしながら、業績は、費用等を無視してたんに売上高の多寡によつて判断し得るものでないことはいうまでもなく、利益が計上された四六年下期は、期首近くに行なわれた臨時員・パートタイマーの傭止めをはじめとする人員削減が実施された期であつて、これをもつてそれ以前の業績を判断することはできないし、右古坂証言及び当審証人福島正明の証言によれば、不合理な仕切価格を定めるなどして政策的に柏工場の荒利益を低く抑えたり、右営業外費用その他の費用で他の部門が負担すべき費用を恣意的操作により柏工場の費用に計上したり、あるいは柏工場に帰属すべき営業外収益を他の部門の収益として計上したりしていたというような事実は認められず、そのような疑いを表明している前掲甲第一三号証、原審証人山口孝の証言により成立が認められる甲第一〇号証並びに原審及び当審証人山口孝の各証言にみられる見解は、にわかに採用し難い。のみならず、柏工場において人員削減を決定したのは、昭和四五年六月に策定された長期計画に基づき増員を行なつたが、不況等の影響により、右計画において見込んだ受注が見込みほどには伸びず、当面その状況が好転する見込みはなく、しかも過大な在庫を抱えるに至つたことから、今後の受注見込み、これに見合う生産量と在籍人員との間に著しい不均衡を生じ、労働力が過剰となつたと判断されたことによることは前示のとおりであり、著しい不均衡を生じていたことは、成立に争いのない乙第三五ないし第三八号証及び当審証人豊島勇一の証言によつて認められるところの昭和五二年に至つて柏工場の管理課長豊島勇一が当時の資料に基づいて行なつた分析結果によつても裏付けられる。このような状況の下において、仮にこの過剰労働力を維持しようとすれば、過剰な生産を続行していたずらに在庫を増加せしめるか(在庫が過大となれば不良資産化する。)、あるいは過大な人件費を支出しつつ生産を減少せしめるほかなく、いずれにせよ業績をより一層悪化せしめることは見易いところであるから、柏工場として人員削減を決定したことは無理からぬところであり、右決定が恣意的になされ、合理性を欠くものであつたとは認められない。

(2) 被控訴人は、人員削減の必要性を判断するのに際し、全社の業績でなく、柏工場の業績を重視するのは失当である旨を主張する。

前掲甲第五号証の一、四、甲第一〇号証によれば、控訴人全社の売上高は四六年下期に減少したほかは、四五年上期以来四七年上期まで上昇していること、利益金も四五年上期から四七年上期までいずれも前期を上廻り、剰余金、引当金も増加傾向にあり、四四年下期以来一割配当を継続していることなどが認められる。右のうち売上高は必ずしも業績の指標とし得ないことは柏工場の業績について述べたと同様であるが、同業他社との比較において控訴人の業績が低水準にあつたかどうかはしばらく措き、業績を控訴人の全社として見る限りにおいて、四五年下期及び四六年上期当時のそれが著しく悪化する傾向にあつたとは認め難い。

しかしながら、控訴人において柏工場を一つの事業部門としていわゆる独立採算制をとつていることは前示のとおりであるから、これを経営上の単位としてその部門における人員削減の要否を判断することは不合理といえず、このことは控訴人が対外的に一つの法人であり、かつ損益の主体であることと少しも矛盾するものではない。ただ他の部門においてこの余剰人員を吸収する余地があり、かつ他の部門への配置転換に適する者がある場合に、他の部門への配置転換ということはあり得るが、本件においてこのような配置転換の余地がなかつたことは後述のとおりである。前掲甲第一〇、第一三号証並びに原審及び当審証人山口孝の証言中右に反する見解は採用し得ない。

それのみならず、原審証人古坂正彰の証言(第一回、第二回)及び前掲乙第八号証の一によれば、控訴人の大阪工場の規模は柏工場の三分の一程度であり、大阪工場の売上高も柏工場の二〇数パーセント程度(四五年下期の売上高、大阪工場五億九五二〇万円、柏工場二四億三九九六万円余。四六年上期の売上高、大阪工場七億〇七二二万円余、柏工場二九億七六二一万円余。同年下期の売上高、大阪工場六億四〇八一万円余、柏工場二九億二一一二万円余)であつて、控訴人の主力たる製造部門は柏工場であること、しかも大阪工場及び販売・本社部門の売上・損益を総合して見ると、四五年下期から四六年下期まで売上高は減少の傾向にあり、その利益は、四五年下期二億四七五二万円余、四六年上期一億九八一四万円余、同年下期四〇七一万円余と急激に減少の傾向にあつたことが認められるから、柏工場の業績悪化を放置して過剰人員を抱えたまま操業を継続すれば、早晩に全社の業績悪化を招くことは見易いところである。それにも拘らず、経営が更に行き詰まり、柏工場のみならず全社の従業員等にもその影響が及ぶような段階に至るまで人員削減を行なうべきでないとは到底いうことができないから、控訴人の全社の状況を考慮しても、柏工場の人員削減の必要性の判断が合理性を欠くとはいえない。

(3) 被控訴人は、控訴人は全社としてはもちろん、柏工場としても解雇を回避すべく業績悪化に対する対策を十分に講じていないと主張する。

しかしながら、

(ア) 原審証人古坂正彰(第一回)、同菊間将年、同豊島正雄、当審証人福島正明の各証言、右古坂証言によつて成立が認められる乙第五号証の一、二、乙第六号証、成立に争いのない乙第二八号証によれば、柏工場は四五年下期後半、四六年上期、四六年下期において柏工場経理課から指示して統制可能費の節減に努力し、予算に対し、四五年下期において二五パーセント、四六年上期において一一パーセント、四六年下期において八パーセントの節減をした事実が認められ、経費節減の方法として、他に適切なものがあり、より以上の節減が可能であつたと認めるに足りる証拠はない。

(イ) 原審証人菊間将年、同豊島正雄の各証言、右豊島証言によつて成立が認められる乙第二〇号証、成立に争いのない乙第二九号証、第三〇号証によれば、柏工場では昭和四六年二月二三日から直接員、間接員の時間外労働を原則として零とすることを目標として残業規制を行ない、新製品の開発等業務上やむを得ない場合を除き、時間外労働を行なわないこととしたこと、その結果残業規制前の四五年下期(昭和四五年一〇月から同四六年二月まで)と比較すると、四六年上期の残業時間は約五〇パーセントに低減したことが認められ、原審における被控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、柏工場の当面した業績悪化対策としてこれ以上の残業規制が適切かつ可能であつたと認めるに足りる証拠はない。

(ウ) 原審証人豊島正雄の証言、前掲乙第二一、第二二号証及び成立に争いのない乙第二七号証によれば、控訴人は昭和四六年八月、すでに同年四月から募集活動に入つていた昭和四七年度学卒者の採用を中止することとし、その旨を関係各方面に通知したこと、また昭和四六年四月から一一月ころまでの間に退職した工場及び男子寮の清掃員の補充として臨時員及びパートタイマー各二名を採用したほかは、新たな採用は一切行なわなかつたこと、また同年八月には間接員の人数を縮減するため、間接員を直接員に転換させることも計画し、二七、八名を転換せしめたことが認められる。

(エ) 原審証人菊間将年、同中山幸男、当審証人豊島勇一の各証言及び成立に争いのない乙第三一、第三二号証によれば、柏工場においては余剰人員を抱えての業務量不足の挽回を図るため、四六年上期より新製品である万能断層撮影装置LUA型機、整形外科用簡易X線装置DO一〇二型機等の開発を行なつたが、結局売却できず、失敗に帰したこと、また昭和四六年二月に内作可能な部品等を外注から内作に切り換える方針を決定し、外注先と折衝を重ね、外注先約一八社の了解を得て同年七月ころから四六年下期前半にかけて月間工数約三五万分に該当する内作切換を実施したことが認められ、柏工場の業務量不足の挽回を図る方策として、これら以外に有効かつ可能な方策があつた認めるべき証拠はない。

そして、柏工場の業績悪化は、受注見込み、これに見合う生産量と在籍人員との間に著しい不均衡を生じ、労働力が過剰となつていたことに起因すること、当面その状況が好転する見込みがなかつたことによるものであることは前示のとおりであり、そうである以上、柏工場として、以上の各対策のほかに、人員削減に先立つてとるべき適切な方策があつたと認めるべき証拠はない。

また控訴人の全社としては、前示の四七年度学卒者の採用中止以外には、対策を講じたと認めるべき証拠はないが、控訴人は、柏工場を一事業部門として独立採算制をとつていたことは前示のとおりであるのみならず、柏工場の業績悪化の原因が右の如きものである以上、他に全社的な対策として適切なものがあつたと認めるべき証拠はない。

なお、被控訴人は、まず各種引当金の取消し、固定資産の処分、資金借入、配当金の削減などを行なうべきであると主張し、前掲甲第一〇号証及び当審証人山口孝の証言中にはこれに副う見解があるが、当時、経営上取り崩すのが合理的と判断さるべき引当金、処分が合理的と判断さるべき固定資産が存在したと認めるべき証拠はないのみならず、過剰人員を維持しつつ、被控訴人の挙示する方策をとることが、前示のような原因に起因し、かつ当面好転の見込みがない業績悪化に対する対策として適切であつたと認めるに足りる証拠はなく、右見解は採用し得ない。

また前掲甲第一三号証中には、売上が三年ないし五年間継続して減少し、そのことから右同年間以上赤字が累積し、債務超過額が右同年間にわたつて増大していることが有効に傭止めを行ない得る要件である旨の見解があるが、そのように解すべきことについての首肯するに足りる根拠は見当らず、右見解は採用し得ない。

(4) 被控訴人は、全社的規模での配置転換、希望退職者の募集、労働時間の短縮、一時帰休などを実施し、それでも企業の維持存続が危ぶまれる場合に、はじめて解雇をなし得るし、また臨時員をその第一順位の解雇対象者とするのは、解雇基準として合理性を欠く旨を主張する。

しかしながら、

(ア) 臨時員の一部につき傭止めを行なう場合に、まず臨時員の中から希望退職者を募るという方法をとるのが妥当であるかどうかはさておき、臨時員全員の傭止めを行なう場合、これに先立ち期間の定めなく雇用されている従業員につき、たとえ希望退職者募集の方法によるとしても、その人員削減を図るのが相当であるとすべき事由は見当らず、むしろこれに先立ち臨時員の傭止めが行なわれてもやむを得ないものというべきである。けだし柏工場の臨時員は、景気変動に対応し、不況時に雇用量の調整を図るという前提の下に、比較的簡易な採用手続によつて期間を定めて雇用されたものであること前示のとおりであるから、たとえ雇用関係のある程度の存続が期待されていたとしても、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めなく雇用されている従業員とは、企業との結び付きの度合いにおいておのずから差異があるのであつて、むしろ特段の事情のない限り、まず臨時員の削減を図るのが社会的にみても合理的というべきであるのみならず、期間の定めなく雇用されている従業員は、一般的には臨時員に比べ、より企業の基幹たるべき労働者なのであるから、人員縮少後における企業の効率的運営という観点からすれば、たとえ希望退職者募集という方法によるとしても、先にこのような基幹労働者の削減を図ることが合理的であるとは到底いえないからである。

なお、原審証人豊島正雄、同菊間将年の各証言によれば、人員削減の一方策として決定した日立製作所からの出向者の同社への復帰については、いつたん日立製作所との間で昭和四七年一月二一日復帰させることが決定したが、臨時員、パートタイマーの傭止めが行なわれた後、柏工場の業績悪化の不安から従業員で退職する者が急増し、右出向者を復帰させなくても、四六年下期末の計画人員五一〇名が実現できる見込みとなつたため、右復帰を中止したことが認められるが、右各証言によれば、右のような退職者の急増という事態は、全く予想外の事態で、臨時員、パートタイマーの傭止め当時は予見できなかつたことが認められるから、後に右のような事態が発生したとしても、このことから、傭止めの必要があるとした前記判断が、その当時の判断として合理性を欠いていたということはできない。

(イ) 柏工場が本件人員削減の方法として約三〇名を柏工場から販売部門に異動させ、日立製作所からの出向者三〇名を同社に復帰させることとしたことは、前示のとおりである。そして右以外の配置転換については、柏工場と同様の製造部門である大阪工場に柏工場の余剰人員を吸収すべき余地があつたと認めるべき証拠はないし、右両工場の沿革や地理的に遠隔地に所在することなどからすれば、臨時員についてはもちろんのこと、期間の定めなく雇用されている従業員についても大阪工場への配置転換が可能であつたとは認められないのみならず、人員縮少後の柏工場の効率的運営という観点からすれば、柏工場に臨時員を残在せしめ、基幹たるべき従業員を他に配置転換せしめる方が合理的である、といえないことはいうまでもない。

(ウ) 柏工場の業績悪化の原因が前示のとおりであり、当面その好転が見込まれなかつたこと前示のとおりである以上、被控訴人主張の労働時間の短縮や一時帰休によつて対処し得ると認めるに足りる証拠はないのみならず、臨時員と期間の定めなく雇用された従業員との前示のような差異からすれば、臨時員の傭止めに先立ち、右のような方策をとるべきであるともいえない。

(5) 被控訴人は、控訴人は本件傭止めにつき、被控訴人に対し誠意を示してその納得を得る努力をしていない旨を主張する。

しかしながら、控訴人は昭和四六年一〇月一六日被控訴人を含む臨時員、パートタイマーに傭止めを告知した際、柏工場の業績悪化の事情を説明し、被控訴人を除くその余の者はこれを了承したこと及び希望者には控訴人において就職先の斡旋をする旨を告げたことは前示のとおりであり、原審証人豊島正雄の証言及び成立に争いのない乙第五五号証によれば、斡旋を希望した六名の者は、控訴人の斡旋によつて他に就職ができたこと、被控訴人は斡旋を希望しなかつたことが認められ、また原審証人菊間将年の証言及び原審における被控訴本人尋問の結果によれば、同月一八日から二〇日までの間、数回にわたり被控訴人と柏工場原料課長菊間将年及び総務課長豊島正雄などとの間で傭止めにつき話合いがされ、控訴人側は説得に努めたが、互に了解を得るに至らなかつたことが認められるのであつて、控訴人においてそれ以上に被控訴人主張のような対応措置をとらなかつたとしても、被控訴人が臨時員であることを考慮すれば、被控訴人の傭止めに当たつての控訴人の対応に不当な点があるということはできない。

(6) 以上によれば、昭和四六年一〇月の時点において臨時員の傭止めを事業上やむを得ないとした控訴人の判断に、合理性に欠ける点は見当らず、これに基づき被控訴人に対してした本件傭止めは、当時の控訴人の被控訴人に対する対応等を考慮に容れても、これを権利の濫用、信義則違反と判断する余地はないし、また当時の柏工場の状況は臨時員就業規則(前掲乙第二号証)第七四条第二項にいう「業務上の都合がある場合」に該当するというべきである。

3  被控訴人が本件傭止めの無効理由として主張するところは、いずれも理由がないこと以上のとおりであるから、被控訴人と控訴人との間の労働契約は、昭和四六年一〇月二〇日をもつて期間の満了により終了したというべきである。

五  してみれば、昭和四六年一〇月二一日以降控訴人との間の労働契約が存続していることを前提とする被控訴人の本訴請求はすべて理由がなく、原判決中被控訴人の請求を認容した部分は、失当であるので、これを取り消し、右請求を棄却すべきである。

よつて、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 安藤覚 三好達 柴田保幸)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告が、被告に対し労働契約上の権利を有することを確認する。

二 被告は、原告に対し、昭和四六年一〇月二一日以降、被告が原告の就労を認めるまで、毎月二九日かぎり、一か月四万六、二七二円の割合による金員を支払え。

三 原告のその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用は、これを三分し、その二を被告のその余を原告の各負担とする。

五 この判決は、第二項に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 原告

主文第一項同旨

被告は原告に対し、昭和四六年一〇月二一日以降被告が原告の就労を認めるまで毎月二九日限り一か月金六万九、二九六円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言。

二 被告

請求棄却。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

(請求原因)

一 原告は、昭和四五年一二月一日以降被告との間で労働契約上の地位にあつたが、被告は、同四六年一〇月二一日以降、右契約が終了したとして、原告との右契約の存在を争い、原告の申出にもかかわらず就労を拒否し、賃金の支払いをしない。

原告の昭和四六年一〇月二〇日以前の三か月間の平均賃金は一か月当り金六万九、二九六円であり、その支払日は毎月二九日であつた。

二 よつて、原告は、被告との間で労働契約上の権利の存在することの確認判決を求め、被告に対し昭和四六年一〇月二一日以降被告が原告の就労を認めるまで毎月二九日かぎり金六万九、二九六円の割合による金員の支払いを求める。

(請求原因に対する答弁)

請求原因一のうち、原告主張の平均賃金額は争うが、その余は認める。被告が、原告に対し昭和四六年八月ないし一〇月の三か月間に支給した総額は一三万八、八一六円であり、一か月平均額は四万六、二七二円である。

同二の主張は争う。

(抗弁)

一 原、被告間の労働契約は、臨時工として当初、昭和四五年一二月一日から二〇日間、その後、二か月毎の期間の約定がなされ、かつ順次更新(五回)され、同四六年一〇月二〇日更新がされないまま右期間が満了したので右契約は終了した。

なお、原告の自白の撤回には異議がある。また原告主張事実のうち被告が、亀戸工場時代の退職者の補充のため柏工場における原告主張の職種の従業員を募集したこと、原告主張のビラにその主張の記載があつたこと(但し、その趣旨は原告の主張とは異なる)、同四五年一一月二二日訴外奥田喜助が原告の面接に当り、正社員登用試験について説明したこと(但し、臨時員募集であることは充分説明した。)、一二月一日原告が柏工場に出頭し、総務課員訴外田中正男が応対に当り(但し、同人は臨時員就業規則によつて臨時員の労働条件を詳細に説明した。)、原告に労働契約書に署名押印させたこと(但し、当初の契約期間は記入済みであつた)、原告が入社後その主張の部署に配属され、その主張の業務に従事し(但し、同四五年一二月から二月まではフライス盤作業の見習、二月から四月まではボール盤作業の見習、五月以降はフライス作業および研磨業務を兼業)、臨時員と正社員との間に業務について特段の区別を設けなかつたこと(但し、正社員と臨時員とは性質上仕事の内容および責任において異なり、臨時員は比較的単純軽易な業務に従事し高度の技量を要する業務に従事させない)、原料課においては、更新時、本人の意思を確かめたうえ、女子事務員が原告から予め預つていた印鑑を労働契約書に捺印して、手続を行なつていたこと、臨時員就業規則に原告主張の内容の規定があり、労働契約書に原告主張の欄の記載があること、被告会社になつてこれまで雇止めがなかつたこと(但し、前身の訴外株式会社日立製作所亀戸工場時代には雇止めの例がある)は認めるが、その余の事実は否認する。原告は、臨時員であること、期間の定めがあることを当初から承知して、被告会社に入社したものである。

二 仮に、右契約に期間の定めがなく、または、右契約が実質的に期間の定めのない契約と異ならないものであるとしても、被告は、次のような業務上の都合から昭和四六年一〇月一六日、原告に対し同月二一日以降契約を更新しない旨実質上解雇の意思表示をしたので、右契約は終了した(右就業規則第七四条第二項該当)。

すなわち、被告会社は、本社および販売を担当する本社販売を担当する本社販売部門(前身は訴外株式会社日立製作所製造にかかる各種レントゲン製品等の販売のみを行つていたもと日立レントゲン販売株式会社)、大阪工場(前身はもと株式会社大阪レントゲン製作所で、昭和四四年八月同会社と前記販売会社とが合併して被告会社が成立)、柏工場(前身は、前記日立製作所亀戸工場のレントゲン等医療機器製造部門であり、これが同四四年一〇月被告会社に営業譲渡され、さらに、同四五年一〇月一日柏市に移転してその業務を引き継ぎ、レントゲン装置等の製造を行つている。)の三部門からなり、その沿革上右三部門は独立採算制がとられている。そして右柏工場は、一般的経済不況の影響を受け、昭和四六年初めころから業績悪化となり、特に四六年上期は受注不振(別表第六)、納期変更(平均月額三億九、三〇〇万円)、受注取消(平均月額三九一一万円)、在庫累積(九月現在売上げの二か月分九億一九〇〇万円位)を重ね、多大の赤字を出した。同工場は、その対策として、同四六年一月以降経費節減、同年二月以降残業規制を行い、八月末日翌年度新卒者採用中止を決定し、九月末日在籍者六一〇名中一〇〇名の人員縮少計画(臨時員、パートタイマー二〇名雇止め、営業部門に約三〇名転属、日立製作所亀戸工場からの出向員三〇名の返還、自然退職者二〇名)を決定、同年一〇月一六日原告を含む臨時員、パートタイマー二〇名の雇止めを実施(原告を除き、全員一か月の予告手当を受領して了承)、その後、営業部門に約二七、八名を転属させたが、自然退職者が激増し、翌年三月二一日現在前記日立製作所からの出向者二四名を含めて、五一〇名となつたので、右出向者を被告会社正社員に転属させた。

なお、被告会社および柏工場の実績は別表第一ないし第七のとおりである。

以上の次第で、被告会社は、このような柏工場における業績悪化のため、剰員が生じやむなく本件雇止めをしたものである。

(抗弁に対する答弁)

一 抗弁一の事実について、原告は当初これを認めたが、右は真実に反し錯誤に基くものであるからこれを撤回し、右事実を否認する。右契約は当初から契約の期間の定めのないものである。

すなわち、被告会社は、昭和四五年一〇月に亀戸工場から柏工場へ移転することに伴う大量の退職者を補充、および柏工場における生産拡大のため、恒常的な基幹業務に従事する要員を確保するため、柏地区配布の新聞折込みのビラで従業員の募集を行い、そのビラには「世界に躍進する日立レントゲン、未来産業の日立医療機器をあなたの手で、職種男子倉庫、組立、機械、捲線、配線、鈑金、塗装等の医療機器製造に伴う職種、三か月後正規社員登用実施(勤務成績重視)、給与男子二七、〇〇〇円~五五、七五〇円、待遇持家制度、住宅貸付金制度有り」等の記載があり、いかにも将来性のある会社で長期勤務を当然とする記載(持家制度、住宅貸付金制度は元来いずれも約五年の長期間勤務の正社員にのみ適用されるのに、直ちに適用されるがごとき記載であり、三か月後正規社員登用実施なる記載は三か月間の試雇期間を経て当然正社員になれること、を意味するもの)があり、二か月の期間および臨時の記載はない。原告はこのようなビラを見て、長期間勤務できるものと考え、その決意で応募し、四六年一一月二二日被告会社の採用面接に応じたが、その面接担当者(訴外奥田喜助)は、臨時工として採用することも、二か月ごとに契約が更新されることも何ら説明せず、正社員登用試験についても、それが形式的なもので真面目に勤めていれば大丈夫であると話し、さらに面接中既に原告を採用したい旨口頭告知しており、原告が、一二月一日柏工場に出頭した際、応対の総務課員(訴外田中正男)からも、臨時工であること二か月ごとの契約の更新、その他契約内容について何ら説明を受けず、労働契約書の契約期間等書込みのない用紙(乙第一号証)に署名押印を求められ、これを了して右課員に渡したにすぎず、しかも、原告は入社後、製造部原料課機械組、フライス島村班に所属し、主としてフライス盤作業および研磨業務に従事したが、原告を含めて、当時の臨時工はその業務内容において本工と質および程度において何ら異ならなかつたこと、そして、二か月ごとの更新も原告には何ら知らされず、給料を受領するため予め預けていた原告の印鑑を事務員が勝手に右契約書に押捺してその手続が行なわれていたにすぎないこと、また原告が就労していた当時存在したかどうか疑問であるが、臨時員就労規則(乙第二号証)には、年次有給休暇、定期健康診断、予防接種などの規定が存在し、これらの規定からも臨時員なるものが長期間の就労を予定されていたこと、また前記労働契約の期間欄が六欄もうけられ、六回以上更新される場合にも新たに契約書を作成するのではなく、右期間欄の用紙を継ぎ足し使用していたこと、被告会社においては本件まで雇止めの前例がなかつたこと、臨時員には別に一定の条件にかぎつて労働を予定されていた季節工およびパートタイマーなる職種が存在していて、もともと臨時員に臨時性がなかつたこと、これらの事実の存在からしても、原・被告の労働契約の締結に当り、双方共当初から期間の約定がなかつたことが明白である。

二 抗弁二の事実のうち、本件解雇が業務上の必要に基づくこと、被告会社の三部門が独立採算制を採用していること、本件解雇当時柏工場の業務が悪化して剰員を生じたこと、経費節減、残業規制が行なわれていたことは否認する。

すなわち、

柏工場は、対外的な営業権を有しないので、独立した経済単位として意味を有しない。しかも被告会社は昭和四五年下期にかけて各期ごとに利益を上昇させていたことは被告会社の自認するとおりであり、本件解雇のなされた同四六年上期は、当期利益、売上高、経常利益とも前期を上回り、固定資産、剰余金、引当金の増加、一割配当の維持等、いずれをとつてみても、業績不振の余地は存在しない。また柏工場自体の実績も、被告の主張によれば、四六年度上期、下期ともに受注、生産額がそれ程低下しておらず、売上げ(販売部門への仕切りにすぎないが)に至つてはかえつて増加しているのであつて、同工場の業績が悪化していたということはできない。被告は経営の赤字をいうが、それさえも、同四六年下期には黒字に転化し、製造工場であるのに開発研究費、本社員の人件費、レントゲンサービス費、発送費まで負担し、費用分担が他の部門に比べて極めて大きく不公平といわねばならず、柏工場自体の損益計算は信用しがたいので、右赤字をもつて直ちに柏工場の業績不振の徴ひようとすることはできない。

以上の次第で、被告会社の業績悪化ないし柏工場の業績悪化を本件解雇の理由とはなしえない。

(再抗弁)

一 仮に本件労働契約について期間の定めがあつたとしてもその期間の定めは公序良俗に反して無効である。

すなわち、前記のとおり、原告の従事した業務は、客観的、主観的にも臨時性がなく、臨時工といわれてもいわゆる本工臨時工であり、そもそも臨時工の制度が、企業主の経済的雇傭政策から労働者保護の関係保護法規を潜脱して、企業主の一方的都合で、容易に人員整理を行なおうとする脱法的反制度であり、しかも本工との間で待遇上不当な差別(日給制、一時金の低額、退職金の否定)をもうけ、これによつて本工と臨時工との間に反目を誘い、労働者全体の団結を妨げ、もつて労働者を劣悪な労働条件下におき、利益をむさぼろうとするものであつて、右契約の期間は公序良俗に反して無効である。

二 仮にそうでないとしても、前記臨時工の雇傭の主体ないし更新の経過からして、少くとも本件雇止め当時、本件契約は期間の定めのないものに転化したか、そうでないとしても、当事者間に期間の満了のみによつては雇止めをしないという相互の信頼関係が生じ、あたかも期間の定めのない契約と実質的には異ならない契約関係として存続していたものというべきであり、したがつて本件雇止めについては、単なる期間の満了で契約は終了せず、解雇の法理に照らしてその効力が検討されねばならない。

三 ところで、本件解雇当時、被告と訴外日立レントゲン柏工場労働組合との間には労働協約が存在し、その二九条には、被告がやむを得ない事実上の都合で組合員を解雇するときは、組合と協議する旨の定めが存し、当時柏工場における従業員は臨時員一四名を含み約六〇〇名、そのうち組合員は約四九〇名であり、原告の従事した労働の実体は前記のとおり組合員のそれと何ら異ならず、原告は右組合員と同種の労働者であるというべきであるので、労組法一七条により右協約の規定は原告らにも拡張適用されるべきものであるのに、原告の解雇について、被告は右組合の協議をしなかつたから、本件解雇は無効である。

四 また、本件雇止めないし解雇は、次のような事実から権利の濫用に当るものであり無効である。すなわち、原告は、誠実に勤務していたものであり、しかも、被告は、前記のとおり業務悪化等本件解雇の必要性がないのに、臨時工の故に労働者の生活を無視して安易に原告を解雇したものである。仮に、被告主張の業績不振の事実が認められるとしても、残業規制、株主への利益配当の停止、出向者の原職復帰、希望退職者の募集等、まず、従業員の解雇以外の処置をとるべきであるのに、本件解雇以前このような措置は何らとられていなかつたのであるから、本件解雇は権利の濫用に当り無効である。

(再抗弁に対する答弁)

一 再抗弁一、二の事実は否認する。臨時工の制度は、会社の事業の変動に対応するためのもので、もちろん法認され公序良俗に反するものではなく、また更新によつて期間の定めのないものに転化するものでもない。

二 同三のうち、原告主張の組合との間にその主張のような協議条項を含む労働協約が存在することは認めるが、原告は組合員と同種の労働者とはいえず、かつ右協議条項は債務的なもので規範囲な効力がなく、本件雇止めの効力を左右するものではない。

三 同四の事実は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一 請求原因一の事実は、原告主張の賃金額のうち月平均四万六、二七二円を越える部分を除き、いずれも当事者間に争いがなく、本件全証拠によるも右金額を越える原告主張の賃金額を認めるに足りる証拠はない。

二 原・被告間の労働契約は、当初二〇日間、その後二か月間の期間の期間の約定があり、五回にわたつて更新したものであることを当初、原告は自白したが、右は真実に反し錯誤に基づくものであるからこれを撤回する旨主張するので、まず右撤回の許否について判断する。

当事者間に争いのない事実、成立に争いのない甲第一号証の一、第二号証、証人豊島正雄の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二号証、証人佐賀浅次郎、長友繁、石川春男の各証言、証人奥田喜助、田中正男、中山幸夫、菊間将年、豊島正雄の各証言(但し、後記措信しない部分を除く)、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すれば、被告会社は、昭和四六年一〇月亀戸工場を柏市に移転して柏工場を開設したが、右移転に関連して従業員が多数退職したため、柏工場における要員の確保さえ危ぶまれる状態にあつたので、同年八月から一一月にかけて、六回にわたり従業員の募集を行ない、合計一七〇名を採用したが、その中からも退職者が激増し、定着せず、一〇月の時点では純増七〇名に過ぎなかつたこと、このような事情から、被告会社においては長期勤務者を特に希望し、募集時における採否の決定にあたつては勤務の永続性に重点をおいたこと、原告は、昭和四五年一一月当時他の会社に勤務していたが、会社規模が小さく将来性に疑問を抱いていたので、被告の募集ビラを見て、将来性のある被告会社に長期間勤務する決意で右募集に応じ、同日担当の面接者の面接審査を受けたこと、右面接者は、原告に対し、臨時工であること、雇傭期間の定めのあること、更新、臨時員就業規則、持家制度、日給制については何ら言及せず、給料についても総額三万五、〇〇〇円ないし三万六、〇〇〇円位である旨告げ、正社員の登用試験についても、形式的なもので真面目に働いておれば必ず正社員になれる旨話し、事実上採用である旨を告げ、当時の勤務会社を退職して一二月一日以降柏工場に勤務するよう申し向けたこと、そして、原告は一二月一日、柏工場に出頭したが、応対に当つた総務課員は、勤務時間、日給額について説明したが、雇傭期間、更新、臨時員就業規則については何ら言及せず、乙第一号証の労働契約書の印刷部分以外何ら記載のないものに原告の署名押印を求め、原告はこれを了して右課員に提出し同契約書は総務課に保管されたこと、また同日引き合わされた所属の原料課長も契約期間について何ら言及しなかつたこと、このようにして原告は期間の定めのないものと考えて被告会社に勤務するに至つたこと、そして被告会社側は同年一二月二〇日以降二か月おきに期間の更新手続を行なつたが、その手続は、当時関係者の間で臨時員とはいえ、本人が辞めるというまでは当然更新するものと考えられていたので、右労働契約書が総務課から各配属の課に回され、原告所属の原料課においては課長配下の女子事務員が予め給料受領のために預けられていた印鑑を、原告にことわることなく、右労働契約書の契約期間欄に押印するのみで、再び右契約書を総務課に返還するにすぎず、原告は本件解雇に至るまでこのような経緯を知らされなかつたこと、当時臨時員就業規則は存在したが、原告を含む一般従業員にはこれを見せなかつたこと臨時員は入社後比較的間がなかつたため、技術的にも未熟で本工に比較すれば、高度の技量を要する業務につくことはまれであつたが、臨時員と本工との間で業務について特別の区別は設けられず、就業時間も差異はなく、原告は見習後本工の行なつていた業務を引き継ぎ単独でその責任においてその業務を行ない、昭和四六年六月ころには技術的に向上し、真面目な勤務態度と相まつて、所属の組長から本工すいせん相当と評価される程度に至り、仕事の上で差別感は持たなかつたこと、被告会社においてはこれまで臨時員の雇止めが行なわれたことはなく、前記募集のビラの記載とは相違するが、ほぼ一〇か月から二か年位の期間を経て正社員に登用されていたこと、そして四六年以降臨時員の勤務年数も勤続年数に加算されるようになつたこと、柏工場においては臨時員の外、農閑期労働者を対象とする季節工、およびパートタイマーの職種が別に存在し、臨時員の名称にかかわらず、その臨時性は実体を欠いていたこと、以上の各事実が認められ、右認定に反する証人奥田喜助、田中正男、中山幸夫、菊間将年の各証言の一部は前掲各証拠に照らして措信することができず、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の印刷部分および原告署名部分によるも右認定を左右するものではなく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原・被告間においては労働契約の期間の約定がなかつたことが認められ、原告のなした自白は真実に反し錯誤に基づくものと推認しうるから、右自白の撤回は許されねばならない。

以上の次第で、原・被告間の期間の約定が認められないのであるから、雇傭期間の満了を原因とする被告の抗弁一の主張は理由がない。

三 そこで、被告主張の抗弁二の成否について判断する。

前記乙第二号証によれば、臨時員就業規則七四条二項には「業務上の都合がある場合には解雇できる」旨の規定がある。そして、前記認定の原・被告間の労働契約締結の経緯および内容に照らして考えれば、右条項にいう「業務上の都合」とは客観的合理的に判断して真に解雇を必要とする程度の業務上の必要がある場合と解すべきであり、もちろん恣意的な解雇を許すものではない。

そして、被告は、柏工場においては経済上独立採算制がとられ、同工場が昭和四六年上期において業績不振となり、その対策として人員縮少のやむなきに至り、原告を含む臨時員、パートタイマー二〇名の雇止めをなさざるを得なかつた旨主張し、証人古坂正彰の証言(第一回)によつて真正に成立したものと認められる乙第七号証の一、四、前記豊島正雄証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二〇、二二号証、前記中山、菊間、古坂(第一、二回)の各証言中には右主張にそう証拠があるが、後記諸事実と照らして考えれば、これらの証拠によるもいまだ原告を解雇しなければならない程の合理的な業務上の必要があつたものとは認められない。

被告は柏工場における独立採算制を主張するが、その主張によつて明らかなごとく、柏工場で製造した製品はすべて本社販売部門を通じて被告会社外に販売され、右工場自体には販売権は認められておらず、しかも弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一一号証によれば、右工場にも販売管理費、発送費、本社費、レントゲンサービス費等独立採算制なら本来本社販売部門が負担すべきものと考えられる諸経費を工場経費として計上させられていたのであるから、右工場に真の意味での独立採算制がとられていたものとはいえず、工場経営の一応の目安として三部門各別の経理上の処理がなされていたにすぎないものと考えられる。そして、被告の主張によるも、被告会社全体の利益は昭和四五年下期から同四六年下期にかけて毎期上昇しており、証人山口孝の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一〇号証によれば、被告会社全体の売上高は同四六年下期において前期よりわずかに減少したほか、同四五年から同四七年上期にかけて毎期上昇していることが認められ、これら認定事実に照らして、本件解雇当時被告会社全体が業績悪化の状態にあつたと認めることができない。また柏工場における売上高も、被告主張の金額によるも、昭和四六年上期は前期より上昇し、同年下期において同年上期よりやや減少している程度にすぎず、たとえ同四六年上期において受注の減少があつたとしても、さほどの業績低下があつたとみることはできない。被告は柏工場における赤字云々と主張するが、それは、前記のとおり、本社販売部門との関連で計上されるべき費用による計算上の結果にすぎず、(このことは売上高の低下した昭和四六年度が前期よりかえつて利益を上げている結果となつていることによつても明らかである)、右主張の利益が工場の業績を示すものとは考えられない。

しかも、被告が本件解雇前希望退職者も募らなかつたことは弁論の全趣旨に徴して明らかであり、被告は業績悪化といいながら、その解決のため真摯な努力をすることなく、臨時員なるが故に、安易に原告を含む臨時員、パートタイマー二〇名の雇止めを敢行したことがうかがえ、しかも、被告の主張によれば、右のうち、原告を除く他の者はその雇止めを了承し、その後営業部門に約二七、八名を転属させたが、翌年三月までに自然退職者が激増し、当時の予定に反し出向者を復帰させれば要員減となるため出向者復帰を取り止めて出向者二四名を被告社員に転属させたというのであるから、これらの事実から判断して、少くとも原告解雇当時、自然退職者を募つて努力すれば、原告を解雇しなくても、被告の予定する人員縮少の計画を実現し得たものと推認しうる。

以上の次第であるから、いまだ原告を解雇すべき業務上の必要があつたものと認めることは困難であり、他に右必要性を認めるに足りる証拠はない。

そうだとすれば、被告主張の臨時員就業規則の解雇条項を適用するに由なく、これを理由とする原・被告間の労働契約終了の主張は理由がない。

四 よつて、その余の点について判断するまでもなく、原・被告間の労働契約は存続していることが明らかであるので、原告の本訴各請求のうち、右契約上の権利の存在確認、および被告が原告の就労拒否を始めた昭和四六年一〇月二一日以降これを認めるまで、毎月二九日限り一か月四万六、二七二円の割合による平均賃金の支払を求める部分を正当として認容し、その余は理由がないので、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(別表第一~七省略)

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